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未知なる海底への希求:海底巨大カルデラ火山から、“火山国”日本の姿を見る(研究応援 vol.07)

日本列島は、太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つがせめぎ合う場所に位置し、世界で最も火山密度が高い地域だ。プレートが沈み込んだ先ではマグマが作られており、ここ数年だけを見ても西之島、阿蘇、桜島などが火を噴いている。一方、こうした山体噴火とは明確に異なる、日本周辺では過去12万年に最低でも10回は起きたとされる“巨大カルデラ噴火”という現象をご存知だろうか。今回、鹿児島沖の海底に眠る鬼界カルデラの調査研究を進める、神戸大学の巽好幸教授にお話を伺った。

 

 

を崩壊させる大爆発の危機

 「仮に巨大カルデラが噴火すれば、最悪の場合1億2000万人が生活不能になるでしょう」。そう巽氏が言うように、巨大カルデラ噴火の威力は桁違いのものだ。そのエネルギーは富士山における宝永噴火の1000倍以上と見込まれ、過去に何度も起きた九州の巨大カルデラ噴火では、遠く北海道まで降灰があった。もちろん噴火地の近隣の被害は甚大だ。7300年前に起きた鬼界カルデラの噴火により、南九州に分布していた縄文人が全滅したであろうことが、土器の様式から見て取れるという。

 現在も、日本国内に7か所ある巨大カルデラの地下にはマグマだまりがあるはずだが、実際に計測された例はないのが現状だ。その理由は、計測するためには広範囲で人工地震を1000回以上起こして反射波を捉える必要があること。人里への影響を考えて実施できないのだ。そこで巽氏は、7つの中で唯一海底にある鬼界カルデラに着目し、研究プロジェクトを組成した。

 

海底の探査で、マグマの活動を理解する

 2016年から始まった調査は、神戸大学の練習船“深江丸”に反射法地震探査のための機材とともに、マルチナロービーム音響測深機、海中ロボットを積み込んで行われた。液体であるマグマと周囲の地殻との間で地震波が伝わる速度が異なることを利用して、マグマ分布を確かめるだけでなく、音響探査、海中ロボットによる撮像により海底表面の地形データを得ることで、地下のマグマ溜まりと地表構造との関係性をモデル化できないか、という狙いだ。

 陸上の火山では、地下の活動に伴って地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮が起こることが知られている。一方で巨大カルデラについては最後の噴火が数千〜数万年前のため、侵食等の影響で表面地形がすでに大きく変わっており、表層と地下との関係性が不明瞭なのだ。「海中にある鬼界カルデラは、地上のものよりも地表形状が保たれているはず。ここで詳細な調査を行うことで巨大カルデラを理解するためのモデルを構築し、他の地域へと敷延していきたいと考えています」。そのためにも高頻度、高精細な地形測定が、マグマの活動を理解するのに重要な要素になるだろう、と考えている。

 

知識を手に入れ、未来に備える

 研究プロジェクトの期間は6年間。巽氏は今後、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)や独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同で、地質や鉱床を含めた海底の大規模探査を進めていこうと考えている。「7300年前、縄文人を滅ぼした火砕流の痕跡が海中に残っているはずです。この厚さ、広さの分布を正確に測れれば、噴出したマグマ量を正確に計算できるのです」。

 過去に噴火した状況の情報を得るとともに、現在のマグマ溜まりのイメージングを進めることで、将来の予測に繋がるかもしれない。もし予測できたとしても防ぐことはできない災厄だが、知って、何らかの準備をすることで、少しでも被害を軽減できるのではないかと考えている。「火山が豊富で、海洋立国と科学技術立国を謳う日本こそリードすべき研究分野です」。地球のダイナミズムの中で生きる我々の将来、このプロジェクトから生まれる知見は重要な意味を持つはずだ。(文・西山 哲史)

記事掲載:研究応援 vol.07 P16-P17